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東京高等裁判所 昭和32年(行ナ)40号 判決

原告 森和一 外一名

被告 日本弁護士連合会

主文

原告等の訴を却下する。

訴訟費用は原告等の負担とする。

事実

原告等は、適法の呼出を受けながら、昭和三二年一二月二三日午後三時の本件最初になすべき口頭弁論期日に出頭しない。その提出した訴状、訴状訂正申立書、準備書面及び答弁書によれば、本訴の請求趣旨は、被告連合会が昭和三二年七月二五日に原告等の異議申立を棄却した審決を取消すとの判決を求めるというのであり、その請求の原因は、原告等は、神戸弁護士会に、その所属弁護士前田力に懲戒事由に該当する非行があるものとして、懲戒を求めたが、同弁護士会は、昭和三〇年九月二九日に、同弁護士に懲戒すべき事由がないものとして、懲戒しない旨を決定した。そこで原告等は、同年一二月一三日に、これを不服として被告連合会に異議の申立をしたが、被告連合会もまた、昭和三二年七月二五日に、同弁護士に懲戒すべき事由を認めがたいものとして、右異議の申立を棄却する旨の審決をしたので、その取消を求めるため、本訴請求に及ぶというのである。

被告訴訟代理人は、前記期日に出頭して、本訴を却下する、との判決を求め、その理由として、弁護士法第六一条第一項の規定による被告連合会に対する異議申立が、理由ないものとして棄却されたときは、異議申立人はこれを不服としてその取消を求める訴を提起できないことは、同法第六二条第一項の規定によつて明らかであると述べ、なお原告等の主張事実中、弁護士前田力に懲戒すべき事由があつたとの点を否認し、その余の事実を認めた。

理由

原告等が、神戸弁護士会に、その所属の弁護士前田力に弁護士として懲戒すべき事由があるものとして、懲戒の請求をしたところ、同弁護士会は懲戒すべき事由がないと決定したこと、原告等がこれを不服として被告連合会に異議の申立をしたが、被告連合会もまた右異議申立を理由がないものとして棄却したこと及び原告等がこれを不服としてその取消を求めるために、本訴を提起したものであることは、いずれも本件記録上明らかである。しかし、被告連合会がなした弁護士懲戒異議申立事件についての審決を不服として当裁判所に出訴できるのは、弁護士法第六二条第一項の規定する場合、即ち弁護士会から懲戒決定を受けた者(弁護士)からなされた異議の申立を被告連合会が棄却した場合であつて、本件のように、弁護士会にその所属弁護士の懲戒を請求した者が、弁護士会の懲戒すべき事由がないとの決定に対し、被告連合会に異議の申立をなし、該異議の申立が棄却された場合に、これを不服として、当裁判所に出訴できる旨の規定はなにもない。したがつて、本訴は不適法として却下さるべきであるから、訴訟費用の負担について、弁護士法第六二条第二項、第一六条第六項、民事訴訟法第八九条、第九三条第一項本文の規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 安倍恕 中村光三 柳川昌勝)

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